すいよう塾の秘密のノート

茨城県、栃木県で活動する個人塾講師・プロ家庭教師の読書日記です。

読書感想 : 『今こそルソーを読み直す』

今こそルソーを読み直す (生活人新書)

今こそルソーを読み直す (生活人新書)

 

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今こそルソーを読み直す (生活人新書)

今こそルソーを読み直す (生活人新書)

 

 

本書はルソー思想の解説書です。著者はルソー思想の根幹をなす『学問芸術論』『人間不平等起源論』『社会契約論』『エミール』の四著作を取り上げ、それらに平易な言葉を用いて明快な解釈を施していきます。

さて、ルソーに対しては、ルソーの生きた時代から現代に至るまで、大きく分けて三つのステレオタイプな批判があります。

『学問芸術論』『人間不平等起源論』でルソーは、学問や芸術の発達つまりは文明の発展が、人間に本来備わっている自由の感情を押し殺し、人間の道徳的慣習を退廃させたと主張します。その上でルソーは、文明以前の、文明に汚染されていない「自然」な状態を理想として描き出します。

➡︎文明批判はいいが、それなら文明を捨てて生きろというのか。

『社会契約論』でルソーは、社会が公正であるには、多数決ではなく、社会の成員全員の合意を得たこと  ーこれをルソーは「一般意志」と呼びますー   に基づいて社会を回していかねばならないと主張します。そしてそれは自分たち自身が合意したものである以上、社会の成員はそれに無条件に従わねばならないとします。

➡︎社会の成員全員の合意を得ることなんてそもそも不可能ではないか。また仮に得られたとしても、一度合意したからといってそれに逆らえなくなるのでは、自由の抑圧につながるのではないか。

『エミール』でルソーは理想の教育を論じます。ルソーは、幼少期には文明の汚染が及んでいない「自然」な環境で教育することを重視し、成長につれて「社会」の中での教育を進めていくべきであると主張します。

➡︎ルソーは自然と社会(文明)を対立的に捉えているのではなかったか。自然の教育と社会の教育は都合よく融合、両立するものなのか。

 

これらのルソー批判に、著者はルソーに成り代わって丁寧に応答していきます。私の見るところ、この応答が、言い換えれば、ステレオタイプであるがそれだけに根強いルソー批判に対する、ルソーに即した回答を示すことが本書のメインテーマです。

著者はレヴィ=ストロースデリダロールズアーレントカッシーラーといったルソーを論じた後代の著名思想家の議論を適宜参照し議論に奥行きを与えながら、ルソーにおもねるでもなく、過度に批判的になるのでもなく、適度な距離間を保ちつつルソーのテクストに即して穏当な回答を提示していきます。

本書を読んで、ルソーに「今こそ読み直す」べき現代的意義を見出だせるかどうかはさておき、本書がスリリングなルソー解釈書であることは間違いありません。ルソー批判に対する著者の回答はどのようなものなのか。気になるかたはぜひ本書を手にとって確認してみてください。