すいよう塾の秘密のノート

茨城県、栃木県で活動する個人塾講師・プロ家庭教師の読書日記です。

読書感想 : 『シャープ崩壊 ー名門企業を壊したのは誰か』

 

シャープ崩壊 ―名門企業を壊したのは誰か

シャープ崩壊 ―名門企業を壊したのは誰か

 

Kindle版 

 

本書は、液晶事業で大成功をおさめこの世の春を謳歌していたものの、「投資の失敗」「人事抗争」により経営危機へと「瞬く間に転落」「崩壊」していったシャープの経緯を克明に追ったものです。

また、本書ではシャープ創業者の早川徳次さん以来のシャープの歴史にも随時触れられ、シャープが一町工場から一大企業へと駆け上っていく軌跡も描かれます。著者は、栄光の軌跡を対照することで、シャープのDNAの崩壊という点からも、シャープの「崩壊」の経緯を浮き彫りにしていきます。

とてもおもしろい本でしたので、簡単に内容を整理しておきたいと思います。

本書のまとめ シャープを壊したのは無能経営者だ。

"液晶のシャープ"の崩壊のきっかけは液晶事業の失敗だった。

液晶のシャープ。

CMなどで一般消費者に刷り込まれたコピーです。たしかにシャープは液晶事業で力を伸ばし、「1.5流」から1流メーカーへの仲間入りをしました。しかし液晶の成功によってシャープは液晶頼りの経営をすすめることになり、それが結果として自分の首を締めることになります。堺工場建設という巨額投資です。設備投資を回収する前に、液晶はコモディティ化し値崩れしてしまいます。

なんであれ売れる製品は真似されて安くなるのは、グローバル経済下においては常識です。シャープの経営陣は、液晶は特別でありコモディティ化を免れると踏んでいたわけです。そうした先見性のなさが投資の大失敗を引き起こしたといえます。

 

人事抗争がシャープの回復を阻んだ。

さて、たしかに巨額投資の失敗は痛い。ですが誰にでも失敗はあると思います。投資の失敗は一大事ですが、常に成功する投資はありません。個人であれ、組織であれ、失敗後にいかに対応するかが重要です。シャープほどの大企業なら失敗を取り戻す体力もあったはずです。崩壊を免れることもできたはずです。
そうはなりませんでした。

皮肉なことに、シャープの今日の経営危機を招いたのは、液晶テレビで世界の一流家電メーカーの仲間入りを果たす原動力となった2人の経営者の「対立」がきっかけだった。第4代社長の町田勝彦と、第5代社長の片山幹雄である。  町田は2007年、49歳だった片山を社長に引き上げた。若手のときからエース技術者だった片山は、「液晶のプリンス」として出世の階段を駆け上った「秘蔵っ子」だった。だが、片山が主導して大阪府堺市に建設した世界最大級の液晶パネル工場(09年稼働)が失敗に終わると、2人の間には亀裂が入る。周囲を巻き込んだ激しい人事抗争が繰り返され、経営は迷走していく。

「片山さんが液晶なら、浜野さんが太陽電池という具合に、お互いが競うように投資するんですから異様でした」。当時の幹部は振り返る。ある日、重要な情報を周囲から知らされた浜野は「社長に言わなくてもいいんですか」と聞かれ、こう返したという。「会長にはお伝えしておく」。社長を〝裸の王様〟にするということだ。社長の片山と、実力副社長の浜野が対立していては、経営が混乱するのは当然のことだ。

シャープは投資の失敗を機に人事抗争にはまりこんでいきます。町田さん、片山さん、浜野さんという経営中枢の3人が、競争意識から会社全体の利益はそっちのけで自身のプライドを守るための経営指示を出していきました。社員はこれを、首が三つある怪獣にかけて「キングギドラ経営」と呼んでいたようです。
人事抗争によって、失敗からの回復は大きく道を阻まれます。

 

シャープは無能な経営者続きで失敗から立ち直ることはできなかった。

ではキングギドラ経営のあとはどうだったか。片山さんの後をついだ奥田社長は、人事抗争の果ての落とし所として選ばれた「人畜無害」の人だったようです。そんな人ですから指導力を発揮することなく終わります。

「奥田は社長の器ではないね。人の心はつかめないし。決断できないから。前に進めようというときにあの人は決断できない。(以下略)」

その後の高橋社長は、人事抗争の弊害をなくすためOB切りを断行しますが、中身はがんばればなんとかなる!的な、精神主義一本槍の経営能力のないかたでした。

高橋はトップでありながら「僕はビジョンを決めない」と言い続けてきた。「自分が言うと周囲が萎縮してしまうから」という理由だ。ただ、高橋が風土改革という名の精神主義にばかり気をとられ、方向性を決めなかったことが構造改革を停滞させ、危機再燃を招いたのは疑いようのない事実だ。 

 「高橋(興三)さんは取引先金融機関から『社長にふさわしくない』という趣旨のことを言われたようです。足元の業績は予想以上に悪化しているし、リーダーシップも期待できない。高橋さんは顔面蒼白で、『会社を何とかしてほしい』と懇願するので精一杯だった……(以下略)」

奥田さん、高橋さんは、キングギドラ経営でぐちゃぐちゃになったシャープを立て直すどころか、無為無策で時を浪費し、シャープの傷口を広げていってしまいます。この間、見通しのつかない将来への不安に加えて自社製品買いを金額を決めて強制(自爆営業)されたりと、ますますもって社員のモチベーションも下がり続けていきます。

うまくいくはずがありません。シャープの崩壊の原因が経営陣のお粗末ぶりにあるのがはっきりわかります。

 

従業員と経営者の能力は別物!

シャープといえば、日本人の誰もが知る名門企業です。採用試験の狭き門をくぐり抜けた選りすぐりの学生だけが就職できる企業です。そしてそうした優秀な人たちのあいだでの出世競争に勝ち抜いた人だけがなれるのが、会社役員であり社長です。

名前をあげた町田さん、片山さん、浜野さん、奥田さん、高橋さんも、それぞれ確かな実績を残して会社に貢献し、出世競争に勝ち抜いてきたかたたちです。それなのにどうしてこんなことになるのでしょうか。そろいもそろって経営者不適格とは・・・ 

従業員としての能力と経営者としての能力とは全くの別物なのでしょう。企業の盛衰が経営者の肩にかかっている以上、経営者が経営者として優秀でなければ企業の不幸につながります。忠誠を誓い長きにわたって"従業員"として企業に貢献してきたからといって、そうした人が"経営者"として優秀であるとは限りません。"従業員"として優れた人から経営者を選ぶよりも、"経営者"としての実績のある経営者をヘッドハンティングするほうが企業としてはるかにリスクが低いのではないか。読了後、そんなことを思わずにはいられませんでした。

 

シャープの現在

本書が出版されてから3年が経過しています。シャープは「崩壊」後、台湾の鴻海精密工業の傘下に入り今に至っています。経営再建に向けて目下邁進中のようです。

シャープはかつての輝きを取り戻せるのでしょうか。目の付け所がシャープな製品を再び世に送り出していく企業へと蘇るのでしょうか。今後の動きに注目していきたいと思います。