すいよう塾の秘密のノート

茨城県、栃木県で活動する個人塾講師・プロ家庭教師の読書日記です。

読書感想 : 2019年10月に読んだ本① / 『イチローは「天才」ではない』『残念な人の口ぐせ』

イチローは「天才」ではない (角川新書)

イチローは「天才」ではない (角川新書)

 

 Kindle

イチローは「天才」ではない (角川oneテーマ21)

イチローは「天才」ではない (角川oneテーマ21)

 

 

本書はイチローに強い影響を与えたとされる人々の「証言」をもとに、イチローの”すごさ”を浮かび上がらせる本です。

いずれの証言も興味深ったのですが、私が特に面白かったのは、二軍時代からイチローを支え続けた河村健一郎(元オリックス二軍打撃コーチ)さんのイチロー論、打撃論です。

私はかつて野球をしていました。イチローが現れて以来、イチロー振り子打法は関心の的でした。

振り子打法はバッティングの理屈に合っているのだろうか。

イチローだけに許された異端なのではないか。

異端だとしたら、どうしてイチローはあんなに打てるのだろうか。

オーソドックスと考えられる従来のバッティング理論にそもそも大きな間違いがあるのではないか。

こんなことを考えたものでした。 

河村さんの話で、振り子打法がオーソドックスなバッティング理論を踏まえて出来上がった打法であることがわかりました。

かいつまんで言えば、振り子打法の肝は、下半身主体で打つにあたり、プロ当初のイチローの下半身の筋力不足を補うために、右足を振って勢いをつけ「ボールに対して体ごとぶつけてい」ったということのようです。

イチローが大リーグでは振り子をしていなかったもこれで納得できます。

大リーグに入る頃には、筋力もついており、もちろんテークバックの小さい大リーグのピッチャーに対応する必要も加味してではありますが、イチローにはもはや振り子の補助は必要なくなったのです。

 

ところで、本書を読んだ感想は、イチローは「天才」であるということです。本書で示されるイチローが残した記録をはじめ、イチローの一つ一つの所作、気構え、身体的能力、その全てがイチローが天才であることを証拠立てています。

なのに本書のタイトルは『イチローは「天才」ではない』です。

釣られました。

イチローって天才じゃないの??と私はタイトルに脊髄反射して本書をダウンロードしてしまいました。著者あるいは編集者にしてやられました...

 

 

 

 

残念な人の口ぐせ (ベスト新書)

残念な人の口ぐせ (ベスト新書)

 

Kindle版 

残念な人の口ぐせ (ベスト新書)

残念な人の口ぐせ (ベスト新書)

 

 

本書は、ビジネスコンサルタントの著者が、仕事ができる人は使わない「残念な口ぐせ」をまとめた本です。

ピックアップされている口ぐせの大半は、組織の中でのコミュニケーションを素材としています。組織で生きる社会人がターゲットの本です。組織で働いている人なら、そんな人いるいる!とありありと想像できる残念な事例が山盛りなのではないでしょうか。

例えばこんな感じです。

チームワーク重視の時間泥棒 「じゃあ、みんなで話すか」

素直な受け答えをするが、実は理解不足 「はい、わかりました」

作業はできるが、シゴトはできない 「どうしたらいいですか?」

 組織人以外にも当てはまる口ぐせも紹介されています。

自分がカワイイ「のに」思考 「・・・・したのに」

プライベートに効率を持ち込みすぎ 「要は何なの」

 さて、こうした残念な口ぐせは、身の回りの誰かを想像してしまう半面、実は誰にでも身に覚えのあるものばかりではないかと思います。私はかなり当てはまっていました。

本書は、身の回りにいる誰かをディスるための本というよりは、人のふり見て我がふり直せを推奨する本のように思えました。

 

 

suiyoujuku.com

読書感想 : 9月に読んだ本③ / 『世界最強の女帝 メルケルの謎』『日本会議の研究』

世界最強の女帝 メルケルの謎 (文春新書)

世界最強の女帝 メルケルの謎 (文春新書)

 

 Kindle

世界最強の女帝 メルケルの謎 (文春新書)

世界最強の女帝 メルケルの謎 (文春新書)

 

 

ドイツの現首相アンゲラ・メルケル

メルケルは、ドイツですでに10年以上に渡って首相の地位にあり、国の舵取りを担っています。その間、メルケルはドイツを欧州の盟主の地位に押し上げました。いまや欧州は「ドイツの欧州」ならぬ「メルケルの欧州」とまでいわれ、メルケルは「欧州の女帝」として君臨しているようです。

本書はメルケルの伝記です。メルケルが生まれてから現在の地位にたどり着くまでの来歴、および現在のメルケルの政治スタイルを紹介、考察することで、人間メルケルの実像を浮かび上がらせることを目的とします。

 

メルケルの来歴は雑駁にまとめると次のようになります。

メルケル東ドイツで育ちます。メルケルは物理学者を志し、一物理学者としての研究生活を送っていました。この間、政治活動とは無縁の生活でした。

②それがベルリンの壁崩壊を機に、突如物理学を辞め、政治活動に転向。転向後、わずか十年でCDU(←日本で言うところの自民党みたいな党です)の党首になります。

③その後、晴れて首相になり、10年以上にわたる長期政権を築くことになります。

①〜③の各段階それぞれで興味深いエピソードが盛り込まれ、メルケルの生涯が詳細に追跡されます。そして伝記の常ですが、メルケルの生涯と絡めて、ドイツの政治、経済、社会を含めたドイツの歴史が臨場感たっぷりに記述されます。例えば、①の時期で描かれる東ドイツの監視社会の息苦しさ、生きづらさ、②の過程での権力闘争の生々しさ、③の段階で中心的に取り上げられるで外交交渉の細やかさとダイナミズム。いずれもそれだけでも十分に楽しめる内容でした。

 

女帝と評されるまでの大政治家となったメルケルについて語られる言葉をいくつか拾ってみます。 

すべてビジネスライクなことは、パッションなきメルケル政治の本質でもある。

 

メルケルの行動原理は案外、単純だという見方がある。首相就任の宣誓の文言に忠実な行動を心掛けているのだという。宣誓は「ドイツ国民の安寧のために献身し、国民の利益を増進し、国民の損害を防ぐ」とあり、ドイツ宰相たるものは、ドイツ納税者が損失を被るような事態を極力避けるために全力を挙げると誓約する。確かに、メルケルの政治家としての行動規範は、ドイツ国民の利益のために働くという契約上の義務に尽きると考えると分かりやすいかもしれない。メルケルはその意味で、「真面目なナショナリスト」なのである。

 

メルケルは「リケジョのマキャベリスト」であり、メルケルマキャベリを掛け合わせた「メルキャベリ」という綽名もある。

 

科学者にとっては観察結果が重要なのであって、科学的知見に長期ビジョンは介入しない。理念や思想も必要ないメルケルにとっては、観察結果に基づく「処方箋」が重要である。

 

メルケルは一を聞いて十を知り、その記憶力は世の常のものではない。担当の官僚が太刀打ちできないほど、その記憶力ははるかな過去に遡り、かつまた実に細部にわたる。誰かのある発言がいつ、どこであったか、メルケルは忘れることはない。

 一切のロマンを排し、国益最大化の目的にひたすらに忠実に、優れた頭脳を駆使して怜悧に戦略を練り、着実に政策を実行していくプラグマティスト政治家。政治家メルケルはこのようにまとめられるのではないかと思います。

夢、ロマン、大きなビジョンを掲げるのではなく、メルケルは目の前にある課題を淡々とこなしていくことで、ドイツ首相、そして欧州の女帝にまで上り詰めたわけです。

大きなビジョンを掲げることが政治家の役割だというかたもいます。私たちはそうした政治家の言葉に魅せられがちです。たしかに、そうした政治家は有権者の気持ちをホカホカさせてくれます。ですが、結局は空手形で有権者を裏切るかもしれません。というより、そうなる可能性が大きいのではないでしょうか。

少なくとも、メルケルのような政治家が統治する社会のほうが、”絵に描いた餅”を公約に掲げる政治家が統治する社会よりははるかにマシでしょう。

 

さて、本書が出版されてから3年半が経過しました。メルケルは昨年の選挙で大敗を喫し、2021年で退陣する意向を明らかにしました。求心力の低下は避けられません。

そんな中、欧州の女帝メルケルは今後残る任期で何を成し遂げ、そしてどのような最期を迎えるのでしょうか。ウォッチしていきたいと思います。

 

 

日本会議の研究 (扶桑社新書)

日本会議の研究 (扶桑社新書)

 

Kindle版 

日本会議の研究 (SPA!BOOKS新書)

日本会議の研究 (SPA!BOOKS新書)

 

 

日本会議と聞いてピンとくる人はそうはいないのではないでしょうか。私もそうでした。

日本会議とは、「皇室中心」「改憲」「靖国参拝」「愛国教育」「自衛隊海外派遣」という政策の実現を目指す民間の保守団体、右派組織です。

そんな一般には名前すらよく知られていないような団体が、本書発刊当初の第三次安倍内閣の、ほぼすべての閣僚に日本会議所属議員を輩出するまでに勢力を伸ばしているようです。

本書は、政治の世界で一大勢力となっている日本会議を分析し、その実態を明らかにしていきます。

著者は、安倍政権の政策実績と日本会議の主張との強い親和性の確認、というより安倍政権と日本会議のずぶずぶの関係の確認に始まり、日本会議の人的構成、活動実態、そしてそのルーツまでを丁寧に論じていきます。

安倍首相が二度目の首相になったとき、私は安倍さんの政治力に感嘆したのを覚えています。安倍さんが返り咲けた理由の一端、つまりは安倍さんの政治力の源泉の一端を、本書を読んで知ることができました。

 

 

suiyoujuku.com

読書感想 : 2019年9月に読んだ本② / 『独裁国家・北朝鮮の実像』『国宝消滅』

独裁国家・北朝鮮の実像――核・ミサイル・金正恩体制

独裁国家・北朝鮮の実像――核・ミサイル・金正恩体制

 

Kindle版 

独裁国家・北朝鮮の実像 核・ミサイル・金正恩体制

独裁国家・北朝鮮の実像 核・ミサイル・金正恩体制

 

 

トランプ政権発足以来、アメリカは北朝鮮への姿勢を軟化させ、北朝鮮と前向きに交渉に臨むようになりました。今では首脳会談を重ねるまでになっています。

ところで、米朝交渉の報道にふれるにつけ思うことがあります。

そもそも北朝鮮のような小国がどうしてアメリカという超大国に歯向い続け、さらにはまるでアメリカと互角の国力があるかのような姿勢で交渉に当たることができるのか。大国日本ですらアメリカ追従を国是としているというのに...

こんな素朴な疑問が頭をもたげてきたので、これを機に北朝鮮に関する本を一冊読んでみようと思い、手に取ったのが本書です。

本書は、北朝鮮の専門家二人の対談形式を取り、二人それぞれが互いに疑問をぶつけ合いながら議論を深め、北朝鮮の実像を浮き彫りにしていくというスタイルの本です。

著者は、朝鮮戦争あたりからの歴史的経緯を踏まえつつ、核問題、米中露韓日との外交問題、国内の社会事情、経済事情、世襲独裁という政治体制といった様々なテーマについて、北朝鮮におもねるのでもなく、かといっていたずらに批判的に向き合うのでもなく、客観的で冷静な視点から、分析を加えていきます。

分析は微に入り細にわたり、その上本書は結構なボリュームがあるので、北朝鮮についてのかなりまとまった知識を手にすることができました。もうお腹いっぱいです。

私たちから見たら無茶苦茶な北朝鮮ではありますが、北朝鮮には北朝鮮なりの論理があり、その論理に従って国家として戦略を立てており、やりたい放題に見える金政権も、権力を確保し続けるためにただ血統の上に胡座をかいているのではなく、時宜に応じて制度に微調整を加えている。

北朝鮮という国家も金政権も、生きるか死ぬかの権力闘争の最前線で闘っている(そして実際に存続し続けている)のですから、こんなことは当たり前のことなのかもしれません。ですが、本書を読んで、私はそんな当たり前のことにも気づかせてもらえました。

本書は本編だけでなく、「巻末資料」も充実しています。面白いのが「朝鮮労働党は、偉大な金日成金正日主義の党である。」にはじまる「朝鮮労働党規約」です。人間の神格化の怖さとある種の滑稽さを味わうことができます。

 

  

国宝消滅

国宝消滅

 

 Kindle

 

本書は、元ゴールドマンサックスアナリストで、現在、文化財補修会社最大手、小西美術工藝社社長であるイギリス人の著者が、日本の文化、文化財を巡る嘆かわしい現状を指摘し、そこからの脱却の方向性を具体的に提案することを目的とします。

著者は日本文化をこよなく愛しています。本書のいたるところから垣間見られる著者の日本文化に対する造詣の深さには驚嘆の一言です。著者は筋金入りの日本愛好者です。それゆえ、日本文化や日本の文化財の「消滅」の危機を強く危惧しています。

造詣が深いだけあって、危機の実際を示す具体例も豊富です。建築物、工芸品、呉服、あるいは茶道いった無形のもの・・・  矢継ぎ早に切羽詰まった事例を見せつけられると、私たちが”日本の文化”として想像するものはいつのまにかなくなってしまうのだろうなと暗い気持ちになってきます。

さて、著者は現在の日本の厳しい経済状況を救う起爆剤の役割を期して、日本文化や文化財を巡る寂しい現状の変革を訴えます。文化や文化財を「観光資源化」し、日本を「観光立国」にすることが、人口減少で経済市場が縮小してく中で日本の「強い経済」を実現する唯一の道だと著者は主張します。日本文化の危機からの脱却は日本経済の危機からの脱却でもあるということです。

 

本書の中から目から鱗の論点を一つ紹介します。

著者は、これまでの日本は文化財を「保護」の対象として扱い、それを観光資源として活かそうという発想に欠けているとし、そうした姿勢を批判の俎上に載せます。著者はおもしろいエピソードをいくつもあげています。例えばこれです。

数年前、京都御所のある御苑にある茶室を借りることができると知ったので、さっそく借りることにしました。そのような茶室でぜひともお茶をいただき、日本の伝統文化を体感したいと思ったのです。そこで京都市に申し込んだところ、思わず耳を疑いました。貸すことはできるが、火が使えないと言うのです。  火といっても焚き火をしようというわけではなく、茶室のなかの炉に釜をかけてお湯をわかすだけですが、「とにかく火気厳禁です。電気を使ってください」の一点張りでした。でしたら、私がちゃんとお金を払って、消防団の方に立ち会ってもらいますと食い下がりましたが、さまざまな理由をつけられて、結局は「規則ですので」と言われました。

火を使わずにどうやってお茶をたてられるのでしょうか。日本の基本的な文化財の考え方は、文化財を後生大事に守ることが第一。そのため文化財においては、なんでもかんでも「禁止」とされます。観光客にとって楽しくもなければ、勉強にもならない。そこを訪れる観光客のことなどまるで考えていないのです。

これでは観光立国もなにもあったもんではありません。文化財関係者は、サービス業に携わる者であれば当たり前にやっている顧客視点のサービス展開が全くできていないのです。

こうした姿勢の背景には、文化財は特別なものだから他の商売とは違うのだという関係者の「驕り」があると著者は見ます。ここでは深入りしませんが、補助金(税金)で支えられているのが当たり前という勘違いもそう、国宝をなかなか一般公開しないこともそう、コスト意識を欠いた文化施設の不可解な料金設定もそう、職人が職人気質をたてに営業をしないこともそう、伝統工芸品だからといってぼったくりの値段設定をするのもそう… すべて特別意識がなせるわざとし、著者はそうした考え方を本書を通して厳しく批判しています。

ところで、小さい時からの私自身の文化施設の観光体験を振り返ると、見るだけでありがたいと思い、各文化施設では禁止事項の多さに窮屈さを感じながらも、由緒ある場所はそういうものだと思い納得していたことに気付かされます。

著者は観光地であるならそれでは物足りないと思いダメ出しをするわけですが、私は日本のこれまでの文化施設のあり方にとくに疑問を感じていなかったということです。私たち観光客が望んでいないのなら、サービス提供者サイドがなにもしないのも納得です。

本書は、外から客観的に見られる外国人の視点の強みが余すところなく発揮された含蓄深い日本文化論でもあります。

 

  

suiyoujuku.com

読書感想 : 2019年9月に読んだ本① / 『1日30分の練習でマラソンサブ3.5を達成する方法』『学校では教えない「社会人のための現代史 池上彰教授の東工大講義国際篇』『データブック 格差で読む日本経済』


サブ3.5(フルマラソンを3時間半以内に走ること)を達成し、いまではさらにタイムを上げている著者による、マラソン練習法指南の本。

主張は単純明快。タイムを上げたかったらスピード練習をせよ!!!というもの。

著者は言います。

フルマラソンのタイムを向上するには、スピード能力の向上が不可欠なのです。スピードを徹底的に鍛えて、レースでは7割くらいのスピードで余力を持って走れるようになれば、失速せずに最後まで走り抜けられます。 LSDといったゆっくり長時間走り続ける力を高めるスタミナ系のトレーニングも、効果的だと言われています。しかし、仕事や家事、子育て、勉強と、みんな忙しいです。長時間走るトレーニングはスケジュール的に厳しいです。 短時間で行えるスピードアップ練習に集中して、スタミナは、レース戦略や補給でカバーする作戦を、本書では提案します。

フルマラソンを速く走るには、スピード練習が有効なのです。何十kmとか長距離を走る必要はありません。

 この主張、実は私自身の実感と同じです。

私自身も、フルではなくハーフですがマラソンをします。長距離を歩く大会にも出場しています。

LSD(長い距離をゆっくり走る、もしくは歩く練習)に比べ、スピード練習はどうしても走る距離、時間が短くなります。そのため距離とスタミナに対する不安が残ってしまいます。何より、長く走ら(もしくは歩か)ないと練習した感が出ない。私はLSDを練習の柱にしがちでした。

ですが、LSDよりもスピード練習に力を入れた時の方が、タイムが伸びました。レースでのスタミナ問題も起きませんでした。

スピード練習が効果的というのは私の個人的体験に基づく個人的な考えに過ぎないと思っていましたが、そうではなかった。

本書に出会えてよかったです。

 

 

 Kindle

 

現代世界の動きを正しく理解するには歴史の理解が欠かせない。とりわけ、現代に直結する第二次世界大戦後の歴史、つまりは東西冷戦と冷戦後の歴史はおさえておかねばならない。

本書は、著者のそんな思いから生まれた現代史の解説書です。

テーマが現代史ですから、私自身が生きて体験してきた時代の歴史でもあります。メディア等を通して、知識をそれなりには得てきているはずのテーマです。ですが、ことばとしては知っていても、その実、それがどのようなインパクトを世界に与えているのかについてはわからないってこと、結構あると思います。

著者は、そうした歴史的知識を現在の世界に有機的に結びつけていくしかたで、現代史についての解説を進めます。

読み出したら止まりません。ページをめくるごとに、頭の中の曖昧であった知識にはっきりとした輪郭が与えられ、知識が整理整頓されていき、知識に血が通い出していきます。

 

意外な歴史的結びつきということで、興味深かったお話を一つ紹介させてください。

中国共産党にとって天安門事件は消し去りたい黒歴史です。民主化を求める学生たちに同情的な発言をし、天安門事件のきっかけを作った当時の総書記胡耀邦親日家(当時の中曽根首相とも仲良し)であったことが、胡耀邦の失脚とともに、親日的態度をとる輩はけしからん、となり、現在の中国共産党政権が進める反日教育の始まりとなったようです。私は中国の反日的態度は、戦後一貫したものなのではないかと推測していましたが、そうではなかったようです。勉強になりました。

 

データブック 格差で読む日本経済

データブック 格差で読む日本経済

 


かつて『ルポ  貧困大国アメリカ』というアメリカの格差を扱った本を読んだときは、目を覆いたくなるようなアメリカの現実を前に、日本人で良かったと心底思ったものでした。ですが、現在、日本も格差社会であるということに異論を唱える人はそうはいないと思います(日本の相対的貧困率OECD26ヶ国中3位)。”1億総中流”の共通認識は、もう完全に過去のものとなってしまいました。

本書は、豊富なデータを駆使して、日本の格差の現状を全体として浮かび上がらせることを目的とします。その際著者は、イデオロギー的偏見を排し、”データに語らせる”ような徹底して客観的な姿勢をとります。扱う格差の種類は以下の通りで網羅的です。

所得の格差
資産の格差
正社員と非正社員の格差
雇用における男女の格差
年金の格差
世代間の格差
大都市と地方の格差
大企業と中小企業の格差
高齢者層の格差
高齢期の貧困
子供の貧困

データを示しながらなされる格差の説明はわかりやすく説得的です。そして様々な格差の現状を一冊にまとめてくれたおかげで、これまで関連テーマを扱った書籍から得た格差がらみの知識の更新と関連付けができました。

本書は終盤で、格差を解決するための政策の提案もしています。

雇用に関する政策
賃金に関する政策
年金に関する政策
税制に関する政策
子供の貧困対策
教育に関する対策
地方創生に関する対策
成長力向上とパイの拡大

問題点が整理されており、向かうべき方向性がよくわかります。ですが、提案される内容はいずれもすでにどこかで見聞きしたことのある政策の焼き直しでした。目新しさがないと著者を批判したいわけではありません。格差問題が顕在化してしばらくたつ今もってなお、問題は手つかずのままであり、格差縮小へと社会が動き出していない現状を突きつけられた気がします。それと同時に、格差問題の深刻さ、解決の難しさを痛感させられました。

とは言っても、問題の解決を図るには、まず問題の実相を知ることから。本書はその手始めにもってこいの一冊だと思います。

 

 

suiyoujuku.com

読書感想 : 2019年8月に読んだ本② / 『志高く 孫正義伝 新版』『史上最強の哲学入門』『史上最強の哲学入門 東洋の哲人たち』『哲学的な何か、あと科学とか』

志高く 孫正義正伝 新版 (実業之日本社文庫)

志高く 孫正義正伝 新版 (実業之日本社文庫)

 

 Kindle

志高く 孫正義正伝 新版 (実業之日本社文庫)

志高く 孫正義正伝 新版 (実業之日本社文庫)

 

 

本書は孫正義の伝記です。孫さんの生い立ちから現在までが克明に綴られています。

最初から最後まで孫さんの生き様に私はただただ圧倒されました。頭の良さ、意志の強さ、胆力、発想力、行動力。いずれも桁外れ。紹介されるエピソードはいずれも仰天させられるものばかりです。すごい人は若い時からすごい。

ところで、立派な人の伝記を読むと、元気をもらえて自分もやろうという気にさせられるものではないでしょうか。本書を読んでそうした気分になれることを否定するわけではありません。ですが孫さんはすごすぎる。同じ人間とは思えないレベルです。私の場合、読後元気をもらえるどうこう以前に、感嘆以外の感情が湧いてきませんでした。

突出した存在ゆえに毀誉褒貶相半ばする人ではありますが、孫さんが今を生きる英雄であることは否定できないと思います。本書はそんな孫さんの”作られ方”を知るのに格好の一冊です。

 

 

史上最強の哲学入門 (河出文庫)

史上最強の哲学入門 (河出文庫)

 

 Kindle

史上最強の哲学入門

史上最強の哲学入門

 

 

 Kindle

史上最強の哲学入門 東洋の哲人たち (河出文庫)
 

 

哲学的な何か、あと科学とか (二見文庫)

哲学的な何か、あと科学とか (二見文庫)

 

 Kindle

哲学的な何か、あと科学とか (二見文庫)

哲学的な何か、あと科学とか (二見文庫)

 

 

3冊とも同じ著者による哲学入門書。著者は大学に属さず在野の哲学者として文筆活動を行なっているかたのようです。

 

さて、哲学関係の書籍には、どういうわけか”入門”の名のつくものが多いと思います。そう思ってアマゾンで”哲学”と入力して見たら、”哲学 入門”が検索ワードとして一番上に出てきました。クリックしてみると、入門書があるわあるわ。哲学は入門書のメッカです。

そんな哲学入門書が溢れかえっている中、”史上最強”を謳う哲学入門書を見つけてしまった。そこで、どこらへんが史上最強のなのだろうと思い、『史上最強の哲学入門』を手にとってみました。

『史上最強の哲学入門』は西洋哲学史がテーマ。著者は西洋哲学史を、古代ギリシアから現代までに登場した哲学者たちの最強頭脳、最強思想を決める闘いの歴史と捉えます。

各哲学者を単に時系列的に整理・解説するありがちな入門書とは違い、著者は、各哲学者の間での対決要素(後の時代の哲学者が乗り越えようとした点)をはっきりとさせながら、西洋哲学史全体を進化を続ける一つの生き物のように描いていきます。哲学者の闘いが積み重なって西洋哲学史が作り上げられてきたのだと実感させられます。

哲学書にはつきものの専門用語もほとんど出てきません。著者は、難しいはずの哲学の内容を自分の言葉に噛み砕いて説明してくれています。とてもわかりやすくて面白い。内容がスイスイ頭に入ってきました。

 

 

二匹目のドジョウということで、『史上最強の哲学入門 東洋の哲人たち』も読んでみました。本書は『史上最強の哲学入門』の東洋哲学バージョンです。期待通りの面白さでした。私にとっては1冊目よりもこちらのほうが面白かった。

大学受験科目に「倫理」があります。選択する生徒さんはほとんどいないのですが、まれに「倫理」を指導させていだたくことがあります。「倫理」には東洋哲学も含まれます。私は東洋哲学の受験知識を教える際に、これまで東洋の哲学者がどうしてそうしたことをいうのかよくわからないままに、受験のための知識としてそれらの説明をしていました。

本書を読んでそんなモヤモヤ感がなくなりました。東洋の哲学者がいっていることが初めて腑に落ちました。

まず著者は、西洋哲学と東洋哲学の根本的な違いをわかりやすく説明します。 

 

西洋哲学

まだ見ぬ真理の獲得がゴール。西洋哲学者は皆、真理を知らない「無知」であり、真理獲得に向けて情熱を注ぐ。そのための手段は論理(言語)の積み上げ。真理は言語化可能。

東洋哲学

真理が獲得された状態がスタート。つまり「真理に到達した」と言い放つ人間(釈迦、孔子など)があらわれることがスタート。彼らが到達した真理は言語化不可能であり感じ取ることしかできない、つまり"悟る"しかない。東洋哲学の本に書かれているのは真理ではない。彼らが達した真理に至るための方法。

 

これだけでも東洋哲学の理解を深めてもらえたと思います。私はこれまで、東洋哲学を西洋哲学の色眼鏡で見ようとする愚を犯していたことに気づかされました。

著者は、前作同様に自分の言葉に噛み砕きながら、東洋哲学が目指す”悟り”の境地を丁寧に説明してくれます。本書を読んでいると”悟り”を開いた気分になってきます。



三匹目のドジョウを狙い、続いて『哲学的な何か、あと科学とか』も読んでみました。こちらは哲学史ではなく、哲学のいくつかのトピックについての解説本です。前の2冊に比べインパクトには欠けますが、わかりやすくまとまっていてこの本も勉強になりました。


3冊ともおもしろかったのですが、あえて順位をつけるとしたら、

一位 『史上最強の哲学入門 東洋の哲人たち』
二位 『史上最強の哲学入門』
三位 『哲学的な何か、あと科学とか』

となるでしょうか。

手っ取り早く”悟り”の疑似体験をしてみたい方は、『史上最強の哲学入門 東洋の哲人たち』を読んでみてください。オススメです。

 

 

suiyoujuku.com