すいよう塾の秘密のノート

茨城県、栃木県で活動する個人塾講師・プロ家庭教師の読書日記です。

読書感想 : 2019年9月に読んだ本② / 『独裁国家・北朝鮮の実像』『国宝消滅』

独裁国家・北朝鮮の実像――核・ミサイル・金正恩体制

独裁国家・北朝鮮の実像――核・ミサイル・金正恩体制

 

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独裁国家・北朝鮮の実像 核・ミサイル・金正恩体制

独裁国家・北朝鮮の実像 核・ミサイル・金正恩体制

 

 

トランプ政権発足以来、アメリカは北朝鮮への姿勢を軟化させ、北朝鮮と前向きに交渉に臨むようになりました。今では首脳会談を重ねるまでになっています。

ところで、米朝交渉の報道にふれるにつけ思うことがあります。

そもそも北朝鮮のような小国がどうしてアメリカという超大国に歯向い続け、さらにはまるでアメリカと互角の国力があるかのような姿勢で交渉に当たることができるのか。大国日本ですらアメリカ追従を国是としているというのに...

こんな素朴な疑問が頭をもたげてきたので、これを機に北朝鮮に関する本を一冊読んでみようと思い、手に取ったのが本書です。

本書は、北朝鮮の専門家二人の対談形式を取り、二人それぞれが互いに疑問をぶつけ合いながら議論を深め、北朝鮮の実像を浮き彫りにしていくというスタイルの本です。

著者は、朝鮮戦争あたりからの歴史的経緯を踏まえつつ、核問題、米中露韓日との外交問題、国内の社会事情、経済事情、世襲独裁という政治体制といった様々なテーマについて、北朝鮮におもねるのでもなく、かといっていたずらに批判的に向き合うのでもなく、客観的で冷静な視点から、分析を加えていきます。

分析は微に入り細にわたり、その上本書は結構なボリュームがあるので、北朝鮮についてのかなりまとまった知識を手にすることができました。もうお腹いっぱいです。

私たちから見たら無茶苦茶な北朝鮮ではありますが、北朝鮮には北朝鮮なりの論理があり、その論理に従って国家として戦略を立てており、やりたい放題に見える金政権も、権力を確保し続けるためにただ血統の上に胡座をかいているのではなく、時宜に応じて制度に微調整を加えている。

北朝鮮という国家も金政権も、生きるか死ぬかの権力闘争の最前線で闘っている(そして実際に存続し続けている)のですから、こんなことは当たり前のことなのかもしれません。ですが、本書を読んで、私はそんな当たり前のことにも気づかせてもらえました。

本書は本編だけでなく、「巻末資料」も充実しています。面白いのが「朝鮮労働党は、偉大な金日成金正日主義の党である。」にはじまる「朝鮮労働党規約」です。人間の神格化の怖さとある種の滑稽さを味わうことができます。

 

  

国宝消滅

国宝消滅

 

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本書は、元ゴールドマンサックスアナリストで、現在、文化財補修会社最大手、小西美術工藝社社長であるイギリス人の著者が、日本の文化、文化財を巡る嘆かわしい現状を指摘し、そこからの脱却の方向性を具体的に提案することを目的とします。

著者は日本文化をこよなく愛しています。本書のいたるところから垣間見られる著者の日本文化に対する造詣の深さには驚嘆の一言です。著者は筋金入りの日本愛好者です。それゆえ、日本文化や日本の文化財の「消滅」の危機を強く危惧しています。

造詣が深いだけあって、危機の実際を示す具体例も豊富です。建築物、工芸品、呉服、あるいは茶道いった無形のもの・・・  矢継ぎ早に切羽詰まった事例を見せつけられると、私たちが”日本の文化”として想像するものはいつのまにかなくなってしまうのだろうなと暗い気持ちになってきます。

さて、著者は現在の日本の厳しい経済状況を救う起爆剤の役割を期して、日本文化や文化財を巡る寂しい現状の変革を訴えます。文化や文化財を「観光資源化」し、日本を「観光立国」にすることが、人口減少で経済市場が縮小してく中で日本の「強い経済」を実現する唯一の道だと著者は主張します。日本文化の危機からの脱却は日本経済の危機からの脱却でもあるということです。

 

本書の中から目から鱗の論点を一つ紹介します。

著者は、これまでの日本は文化財を「保護」の対象として扱い、それを観光資源として活かそうという発想に欠けているとし、そうした姿勢を批判の俎上に載せます。著者はおもしろいエピソードをいくつもあげています。例えばこれです。

数年前、京都御所のある御苑にある茶室を借りることができると知ったので、さっそく借りることにしました。そのような茶室でぜひともお茶をいただき、日本の伝統文化を体感したいと思ったのです。そこで京都市に申し込んだところ、思わず耳を疑いました。貸すことはできるが、火が使えないと言うのです。  火といっても焚き火をしようというわけではなく、茶室のなかの炉に釜をかけてお湯をわかすだけですが、「とにかく火気厳禁です。電気を使ってください」の一点張りでした。でしたら、私がちゃんとお金を払って、消防団の方に立ち会ってもらいますと食い下がりましたが、さまざまな理由をつけられて、結局は「規則ですので」と言われました。

火を使わずにどうやってお茶をたてられるのでしょうか。日本の基本的な文化財の考え方は、文化財を後生大事に守ることが第一。そのため文化財においては、なんでもかんでも「禁止」とされます。観光客にとって楽しくもなければ、勉強にもならない。そこを訪れる観光客のことなどまるで考えていないのです。

これでは観光立国もなにもあったもんではありません。文化財関係者は、サービス業に携わる者であれば当たり前にやっている顧客視点のサービス展開が全くできていないのです。

こうした姿勢の背景には、文化財は特別なものだから他の商売とは違うのだという関係者の「驕り」があると著者は見ます。ここでは深入りしませんが、補助金(税金)で支えられているのが当たり前という勘違いもそう、国宝をなかなか一般公開しないこともそう、コスト意識を欠いた文化施設の不可解な料金設定もそう、職人が職人気質をたてに営業をしないこともそう、伝統工芸品だからといってぼったくりの値段設定をするのもそう… すべて特別意識がなせるわざとし、著者はそうした考え方を本書を通して厳しく批判しています。

ところで、小さい時からの私自身の文化施設の観光体験を振り返ると、見るだけでありがたいと思い、各文化施設では禁止事項の多さに窮屈さを感じながらも、由緒ある場所はそういうものだと思い納得していたことに気付かされます。

著者は観光地であるならそれでは物足りないと思いダメ出しをするわけですが、私は日本のこれまでの文化施設のあり方にとくに疑問を感じていなかったということです。私たち観光客が望んでいないのなら、サービス提供者サイドがなにもしないのも納得です。

本書は、外から客観的に見られる外国人の視点の強みが余すところなく発揮された含蓄深い日本文化論でもあります。

 

  

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読書感想 : 2019年9月に読んだ本① / 『1日30分の練習でマラソンサブ3.5を達成する方法』『学校では教えない「社会人のための現代史 池上彰教授の東工大講義国際篇』『データブック 格差で読む日本経済』


サブ3.5(フルマラソンを3時間半以内に走ること)を達成し、いまではさらにタイムを上げている著者による、マラソン練習法指南の本。

主張は単純明快。タイムを上げたかったらスピード練習をせよ!!!というもの。

著者は言います。

フルマラソンのタイムを向上するには、スピード能力の向上が不可欠なのです。スピードを徹底的に鍛えて、レースでは7割くらいのスピードで余力を持って走れるようになれば、失速せずに最後まで走り抜けられます。 LSDといったゆっくり長時間走り続ける力を高めるスタミナ系のトレーニングも、効果的だと言われています。しかし、仕事や家事、子育て、勉強と、みんな忙しいです。長時間走るトレーニングはスケジュール的に厳しいです。 短時間で行えるスピードアップ練習に集中して、スタミナは、レース戦略や補給でカバーする作戦を、本書では提案します。

フルマラソンを速く走るには、スピード練習が有効なのです。何十kmとか長距離を走る必要はありません。

 この主張、実は私自身の実感と同じです。

私自身も、フルではなくハーフですがマラソンをします。長距離を歩く大会にも出場しています。

LSD(長い距離をゆっくり走る、もしくは歩く練習)に比べ、スピード練習はどうしても走る距離、時間が短くなります。そのため距離とスタミナに対する不安が残ってしまいます。何より、長く走ら(もしくは歩か)ないと練習した感が出ない。私はLSDを練習の柱にしがちでした。

ですが、LSDよりもスピード練習に力を入れた時の方が、タイムが伸びました。レースでのスタミナ問題も起きませんでした。

スピード練習が効果的というのは私の個人的体験に基づく個人的な考えに過ぎないと思っていましたが、そうではなかった。

本書に出会えてよかったです。

 

 

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現代世界の動きを正しく理解するには歴史の理解が欠かせない。とりわけ、現代に直結する第二次世界大戦後の歴史、つまりは東西冷戦と冷戦後の歴史はおさえておかねばならない。

本書は、著者のそんな思いから生まれた現代史の解説書です。

テーマが現代史ですから、私自身が生きて体験してきた時代の歴史でもあります。メディア等を通して、知識をそれなりには得てきているはずのテーマです。ですが、ことばとしては知っていても、その実、それがどのようなインパクトを世界に与えているのかについてはわからないってこと、結構あると思います。

著者は、そうした歴史的知識を現在の世界に有機的に結びつけていくしかたで、現代史についての解説を進めます。

読み出したら止まりません。ページをめくるごとに、頭の中の曖昧であった知識にはっきりとした輪郭が与えられ、知識が整理整頓されていき、知識に血が通い出していきます。

 

意外な歴史的結びつきということで、興味深かったお話を一つ紹介させてください。

中国共産党にとって天安門事件は消し去りたい黒歴史です。民主化を求める学生たちに同情的な発言をし、天安門事件のきっかけを作った当時の総書記胡耀邦親日家(当時の中曽根首相とも仲良し)であったことが、胡耀邦の失脚とともに、親日的態度をとる輩はけしからん、となり、現在の中国共産党政権が進める反日教育の始まりとなったようです。私は中国の反日的態度は、戦後一貫したものなのではないかと推測していましたが、そうではなかったようです。勉強になりました。

 

データブック 格差で読む日本経済

データブック 格差で読む日本経済

 


かつて『ルポ  貧困大国アメリカ』というアメリカの格差を扱った本を読んだときは、目を覆いたくなるようなアメリカの現実を前に、日本人で良かったと心底思ったものでした。ですが、現在、日本も格差社会であるということに異論を唱える人はそうはいないと思います(日本の相対的貧困率OECD26ヶ国中3位)。”1億総中流”の共通認識は、もう完全に過去のものとなってしまいました。

本書は、豊富なデータを駆使して、日本の格差の現状を全体として浮かび上がらせることを目的とします。その際著者は、イデオロギー的偏見を排し、”データに語らせる”ような徹底して客観的な姿勢をとります。扱う格差の種類は以下の通りで網羅的です。

所得の格差
資産の格差
正社員と非正社員の格差
雇用における男女の格差
年金の格差
世代間の格差
大都市と地方の格差
大企業と中小企業の格差
高齢者層の格差
高齢期の貧困
子供の貧困

データを示しながらなされる格差の説明はわかりやすく説得的です。そして様々な格差の現状を一冊にまとめてくれたおかげで、これまで関連テーマを扱った書籍から得た格差がらみの知識の更新と関連付けができました。

本書は終盤で、格差を解決するための政策の提案もしています。

雇用に関する政策
賃金に関する政策
年金に関する政策
税制に関する政策
子供の貧困対策
教育に関する対策
地方創生に関する対策
成長力向上とパイの拡大

問題点が整理されており、向かうべき方向性がよくわかります。ですが、提案される内容はいずれもすでにどこかで見聞きしたことのある政策の焼き直しでした。目新しさがないと著者を批判したいわけではありません。格差問題が顕在化してしばらくたつ今もってなお、問題は手つかずのままであり、格差縮小へと社会が動き出していない現状を突きつけられた気がします。それと同時に、格差問題の深刻さ、解決の難しさを痛感させられました。

とは言っても、問題の解決を図るには、まず問題の実相を知ることから。本書はその手始めにもってこいの一冊だと思います。

 

 

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読書感想 : 2019年8月に読んだ本② / 『志高く 孫正義伝 新版』『史上最強の哲学入門』『史上最強の哲学入門 東洋の哲人たち』『哲学的な何か、あと科学とか』

志高く 孫正義正伝 新版 (実業之日本社文庫)

志高く 孫正義正伝 新版 (実業之日本社文庫)

 

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志高く 孫正義正伝 新版 (実業之日本社文庫)

志高く 孫正義正伝 新版 (実業之日本社文庫)

 

 

本書は孫正義の伝記です。孫さんの生い立ちから現在までが克明に綴られています。

最初から最後まで孫さんの生き様に私はただただ圧倒されました。頭の良さ、意志の強さ、胆力、発想力、行動力。いずれも桁外れ。紹介されるエピソードはいずれも仰天させられるものばかりです。すごい人は若い時からすごい。

ところで、立派な人の伝記を読むと、元気をもらえて自分もやろうという気にさせられるものではないでしょうか。本書を読んでそうした気分になれることを否定するわけではありません。ですが孫さんはすごすぎる。同じ人間とは思えないレベルです。私の場合、読後元気をもらえるどうこう以前に、感嘆以外の感情が湧いてきませんでした。

突出した存在ゆえに毀誉褒貶相半ばする人ではありますが、孫さんが今を生きる英雄であることは否定できないと思います。本書はそんな孫さんの”作られ方”を知るのに格好の一冊です。

 

 

史上最強の哲学入門 (河出文庫)

史上最強の哲学入門 (河出文庫)

 

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史上最強の哲学入門

史上最強の哲学入門

 

 

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史上最強の哲学入門 東洋の哲人たち (河出文庫)
 

 

哲学的な何か、あと科学とか (二見文庫)

哲学的な何か、あと科学とか (二見文庫)

 

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哲学的な何か、あと科学とか (二見文庫)

哲学的な何か、あと科学とか (二見文庫)

 

 

3冊とも同じ著者による哲学入門書。著者は大学に属さず在野の哲学者として文筆活動を行なっているかたのようです。

 

さて、哲学関係の書籍には、どういうわけか”入門”の名のつくものが多いと思います。そう思ってアマゾンで”哲学”と入力して見たら、”哲学 入門”が検索ワードとして一番上に出てきました。クリックしてみると、入門書があるわあるわ。哲学は入門書のメッカです。

そんな哲学入門書が溢れかえっている中、”史上最強”を謳う哲学入門書を見つけてしまった。そこで、どこらへんが史上最強のなのだろうと思い、『史上最強の哲学入門』を手にとってみました。

『史上最強の哲学入門』は西洋哲学史がテーマ。著者は西洋哲学史を、古代ギリシアから現代までに登場した哲学者たちの最強頭脳、最強思想を決める闘いの歴史と捉えます。

各哲学者を単に時系列的に整理・解説するありがちな入門書とは違い、著者は、各哲学者の間での対決要素(後の時代の哲学者が乗り越えようとした点)をはっきりとさせながら、西洋哲学史全体を進化を続ける一つの生き物のように描いていきます。哲学者の闘いが積み重なって西洋哲学史が作り上げられてきたのだと実感させられます。

哲学書にはつきものの専門用語もほとんど出てきません。著者は、難しいはずの哲学の内容を自分の言葉に噛み砕いて説明してくれています。とてもわかりやすくて面白い。内容がスイスイ頭に入ってきました。

 

 

二匹目のドジョウということで、『史上最強の哲学入門 東洋の哲人たち』も読んでみました。本書は『史上最強の哲学入門』の東洋哲学バージョンです。期待通りの面白さでした。私にとっては1冊目よりもこちらのほうが面白かった。

大学受験科目に「倫理」があります。選択する生徒さんはほとんどいないのですが、まれに「倫理」を指導させていだたくことがあります。「倫理」には東洋哲学も含まれます。私は東洋哲学の受験知識を教える際に、これまで東洋の哲学者がどうしてそうしたことをいうのかよくわからないままに、受験のための知識としてそれらの説明をしていました。

本書を読んでそんなモヤモヤ感がなくなりました。東洋の哲学者がいっていることが初めて腑に落ちました。

まず著者は、西洋哲学と東洋哲学の根本的な違いをわかりやすく説明します。 

 

西洋哲学

まだ見ぬ真理の獲得がゴール。西洋哲学者は皆、真理を知らない「無知」であり、真理獲得に向けて情熱を注ぐ。そのための手段は論理(言語)の積み上げ。真理は言語化可能。

東洋哲学

真理が獲得された状態がスタート。つまり「真理に到達した」と言い放つ人間(釈迦、孔子など)があらわれることがスタート。彼らが到達した真理は言語化不可能であり感じ取ることしかできない、つまり"悟る"しかない。東洋哲学の本に書かれているのは真理ではない。彼らが達した真理に至るための方法。

 

これだけでも東洋哲学の理解を深めてもらえたと思います。私はこれまで、東洋哲学を西洋哲学の色眼鏡で見ようとする愚を犯していたことに気づかされました。

著者は、前作同様に自分の言葉に噛み砕きながら、東洋哲学が目指す”悟り”の境地を丁寧に説明してくれます。本書を読んでいると”悟り”を開いた気分になってきます。



三匹目のドジョウを狙い、続いて『哲学的な何か、あと科学とか』も読んでみました。こちらは哲学史ではなく、哲学のいくつかのトピックについての解説本です。前の2冊に比べインパクトには欠けますが、わかりやすくまとまっていてこの本も勉強になりました。


3冊ともおもしろかったのですが、あえて順位をつけるとしたら、

一位 『史上最強の哲学入門 東洋の哲人たち』
二位 『史上最強の哲学入門』
三位 『哲学的な何か、あと科学とか』

となるでしょうか。

手っ取り早く”悟り”の疑似体験をしてみたい方は、『史上最強の哲学入門 東洋の哲人たち』を読んでみてください。オススメです。

 

 

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読書感想 : 2019年8月に読んだ本① / 『難民を知るための基礎知識』『なぜアマゾンは1円で本が売れるのか』『ヒトラー対スターリン 悪の最終決戦』『観念論ってなに?』『データが語る日本財政の未来』

 

難民を知るための基礎知識――政治と人権の葛藤を越えて

難民を知るための基礎知識――政治と人権の葛藤を越えて

 

 

本書は難民問題の入門書です。

難民問題に携わる様々な専門家がそれぞれの専門分野から光をあてる仕方で、難民について知っておくべき「基礎知識」をわかりやすく解説しています。

基礎知識をわかりやすく、とはいっても本書はかなりの情報量が詰まっており読み応えは十分。とても勉強になる一冊です。

さて、副題にある「政治と人権の葛藤」とは、誤解を恐れずに言えば、自分たちのご飯と難民の人権どっちが大事かってことです。そしておそらくは、難民の人権は大事だけど自分たちのご飯の方がもっと大事、と考える人が大半、いや、誰もがそう考えるのではないでしょうか。

そして難民受け入れ国は主に西洋諸国です。難民受け入れ国の政治家は難民が選ぶのではなく難民受け入れ国の国民が選ぶ以上、人権の意義を高らかに謳う西洋各国の政治家も、人権よりも国民のご飯を優先せざるを得ません。人権よりも政治です。そうした中で、西洋諸国をはじめとする世界各国は難民保護の動きを進めていかねばならない...

本書からこの葛藤の深刻さはヒシヒシと伝わってきましたが、その葛藤を「越え」ていくための光明のようなものを私は読み取ることはできませんでした。ただただ難民の惨状に胸を締め付けられ、難民問題の解決の難しさに思いをいたすばかりでした。

 

 

 

タイトルからして、アマゾンのビジネスモデルの解説本かと思いますが、そうではありません。もちろん、それについても触れられてはいますが、それはわずか数ページです。タイトルに惹かれて本書を読み始めた方は、肩透かしを食うことになります。

本書のテーマは副題にある「ネット時代のメディア戦争」です。

新聞、出版、テレビといった旧メディアはもちろん、SNS、ニュースサイト、ニコニコ動画のようなネットによって出現した新メディアも、生き残りをかけて必死でもがいている。著者は丹念な取材に基づいて、そうした各メディアの時代への適応の具体相を、歴史的変遷を踏まえながら語っていきます。そして、各メディアの変化に伴うコンテンツのあり方の変化についても、様々な事例を紹介しながら考察を加えていきます。各メディアの取り組みの一つ一つの事例がとても興味深く、各メディアの最前線で何が起こっているのかを幅広く俯瞰的に知ることができました。

 

  

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「史上最悪の独裁者」とされるヒトラースターリン。本書はその二人の動静をメインに第二次世界大戦を描いていきます。

第二次世界大戦がらみの知識の整理と肉付けをするのに手頃な本です。

これまで著者の本を何冊か読んでいますが、キャッチーなテーマを選択し、読みやすく、面白く一冊の新書にまとめ上げるその手腕には毎度惚れ惚れさせられます。”新書職人”だと思います。

 

 

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観念論という言葉を普段使うことはありません。耳にすることもまずありません。強いて使われる状況を考えると、「そんな考えは観念論に過ぎないよ」といったように、相手の考えを机上の空論として批判する文脈でしょうか。

そんななんとなくしかわからない”観念論”という言葉は、哲学的にはバークリという18世紀のイギリスの哲学者に根を持ち、以来現在に至るまで様々な哲学者によって議論されてきた歴史ある、由緒正しい言葉のようです。

本書は、観念論の歴史全体を射程に収めるのではなく、起源となったバークリの観念論に焦点を絞り、そもそも観念論ってどういうことなのか、という点を深掘りすることを目的とします。

バークリの観念論とは「物質否定論」です。要するに、”世界は自分の心の中にある観念に過ぎない。例えば、目の前の机は実在するように見えるが、実は自分の心の中にしか存在しない”という考え方です。

とんでもない考え方のように思えますが、バークリがどうしてそうした考えに至ったのかを著者は懇切丁寧に説明します。バークリや哲学についての予備知識がなくても大丈夫。対話形式で書かれており議論が一つ一つ確認されながら進んで行くため、おいていかれることがありません。

本書を読んでいて、”世界は見えているように本当に存在しているのだろうか”とか、”世界は自分の想像の産物に過ぎないのではないのか”といった疑問がかつて頭をよぎったことを私は思い出しました。おそらく多くの方も一度はそんな素朴な疑問を持ったことがあるのではないでしょうか。

バークリはいわば、そんな素朴な疑問に向き合い続けた哲学者です。素朴な疑問でもバークリのように徹底して考え抜くと、その疑問の先にはこうも好奇心をそそられる世界がひらけてくるものなのか。あの手この手の議論を繰り出し”心の外に世界はない”との自説の説得にかかるバークリの思考力に圧倒されつつ、バークリの議論の展開にワクワクしながら、私は本書を読みました。

 

 

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本書は、「経済の素人」を自認する弁護士の著者が、経済データを虚心坦懐に見れば、アベノミクスって完全に失敗しているよね、ということを示す本です。

私はアベノミクス(≒リフレ政策)に批判的な経済学者、例えば本書の帯にもある野口悠紀雄さんや、『リフレはヤバイ』という著書もある小幡績さんの主張が、アベノミクス支持派(≒リフレ派)の人々の主張よりも正しいのではないかと思っています。

そのバイアスのせいなのかもしれませんが、私は本書の議論は説得的だと思いました。

なお、本書の著者も、野口さん、小幡さんも、アベノミクスは失敗しているという認識だけでなく、このままでは財政は悪化の一途をだとり、日本はお先真っ暗であるという認識でも一致しています。

希望のない人生はしんどいものです。これからを生きる私たちの基礎とすべきマインドセットは、”マクロ(国)はダメでもミクロ(個々人)は別”と信じることなのかもしれません。

 

 

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読書感想 : 2019年7月に読んだ本 / 『超現代語訳 戦国時代』『人はなぜ不倫をするのか』『芸術の哲学』

7月に読んだ本で、記事で紹介できなかったものをまとめて紹介します。

 

超現代語訳 戦国時代 笑って泣いてドラマチックに学ぶ (幻冬舎文庫)
 

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著者の本職がお笑い芸人というだけあって、読者を飽きさせないサービス精神満載の一冊です。堅苦しさ一切なしの愉快な語り口で、応仁の乱関ヶ原の戦い、真田三代の歴史を、楽しく、わかりやすく学ばせてくれます。おもしろくて私は一気に読みました。おそらく子供が読んでも一気に読み通せるでしょう。もし私に子供がいたら、本書を子供に渡したい。そして歴史っておもしろいって感じてもらいたい。

 

 

人はなぜ不倫をするのか (SB新書)

人はなぜ不倫をするのか (SB新書)

 

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人はなぜ不倫をするのか (SB新書)

人はなぜ不倫をするのか (SB新書)

 

 

女性学・ジェンダー研究家、昆虫学者、動物行動学研究家、宗教学者、心理学者、産婦人科医・性科学者、行動遺伝学者、脳科学者。本書は8人の各分野の専門家が、不倫をどのように考えているかを紹介する本。

8人は、不倫を測る基準として善悪という倫理的基準を脇に置き、価値中立的な立場から不倫を論じます。8人それぞれの立場から展開される不倫論はいずれも興味深いものでしたが、ポイントは本書の帯にもあるように、「誰一人不倫を否定しなかった」ことです。倫理的基準を容れなければ、不倫があってもそれはそれで仕方のないこと、というわけです。

ところで、一昔前までは、同性愛者や黒人の人々は差別の対象とされ、善悪でいうところの悪として規定されることがありました。それが今では彼/彼女らの権利回復がなされつつあり、肌の色や性的嗜好に関わらず誰もが平等に扱われる社会へと進んでいます。つまり善悪の基準は相対的なものです。今の時代の倫理的基準が必ずしも絶対ではありません。いつの日か、不倫は仕方のないこととして捉えられるようになり、不倫を悪とする現在の基準が相対化されることもあるかもしれません。

 

 

芸術の哲学 (ちくま学芸文庫)

芸術の哲学 (ちくま学芸文庫)

 

 

本書で著者は、アリストテレスニーチェハイデッガー、ガダマー、フロイトユングショーペンハウアー、カントの芸術論をまとめながら、著者自身の「芸術の哲学」の構築を目指します。

ただし本書の売りは、著者自身の「芸術の哲学」ではなく、名前を挙げた思想家の芸術論の懇切丁寧でわかりやすい解説でしょう。彼らの芸術論に関心のある方にとって間違いなく参考になる本です。